21.祇園の桜
Source:『都名所図会』巻三
絵は雙林寺の観桜の風景を描いたもの。雙林寺は金玉山と号す天台宗の別院で、伝教大師の開基です。ここの桜について、本文には次のように解説があります。
当寺の桜は西行法師植ゑ給ひ、つねに愛したまふとぞ。これをみると、絵にあるのが西行法師ゆかりの桜樹であることがわかります。つまり、西行桜と呼ばれる桜なのです。雙林寺の南、西行堂のかたわらに植えられています。
西行は桜を愛でたことで知られますが、晩年の作品に次のような和歌があります。
願わくは花の下にて春死なん そのきさらぎの望月の頃もしも願いがかなうならば、桜花が咲く春に死にたい。その思いが通じたのか、西行が亡くなったのは、如月の望月の頃、1日の誤差はありますが2月16日です。
絵は、西行桜を観ながら、西行よろしく詠歌に興じる人びとの姿が描かれています。
右側の床几は男性3人のグループ。彼らは桜の花よりも、別の花、美しい女性のほうが気にかかる様子。桜樹の下で短冊や色紙に記された和歌をみているのは、二本差の武士たちです。
左側、手前の床几は女性のグループ。振り袖の娘さんたちは、ドレス・アップして出かけるのです。後ろの床几では、女性が湯茶の仕度をしています。その横、剃髪の男性は、料理に一献さしながらの観桜。なかなかよい歌が詠めないとみえます。
From:Yuki NISHINO