26.角屋、雪の庭
Source:『都林泉名勝図会』巻五
~(島原)同所、角屋雪興~
京都の地域だけを扱った「名所図会」は4種類が出版されています。これらの書物をひもとくと、ひとつの特徴をみることができます。それは冬の景色を描いた挿絵が少ないということ。底冷えのする京都の冬は、江戸時代の人々にとっても非常に厳しいものだったことと知られます。
『都林泉名勝図会』のなかの「島原、角屋雪興」は、冬の景色を描く数少ない挿絵です。島原の揚屋、雪化粧をした角屋の前栽を描いています。ここで有名なのは絵の右手前の「臥龍松」。立派な枝ぶりが窺い知れます。中央の「大座敷」、総髪で煙管をふかしている男性が「大尽」です。雪の庭と太夫の美しさ、それに旨い酒と料理があれば、寒さも忘れるというもの。それに比べて右隣の座敷では、火鉢を前に暖をとる男性。「こう寒かったら、かないません」。
右端の2階は「青貝の間」。螺鈿が鏤められているがゆえにこの名がつきます。今日ばかりは室内の華麗さよりも部屋からの眺望が勝っているとみえます。階下を見下ろせば、前栽の人々。寒さをものともせず、雪ころがし、雪合戦に興じています。縁側には雪だるまや雪うさぎもならびます。
「おお寒う」。絵の左側、大座敷の奥手の厠に続く廊下の男性、用を足しに行くところ。寒さで酒がすすんだためか、少々ちかい。風流を愛でる一方、このように現実的な様子を描いているところがこの絵の趣向なのです。
From:Yuki NISHINO