39.忠義の乳母が餅
Source:『伊勢参宮名所図会』巻一
乳母が餅という菓子は女性の乳房を模したひと口サイズの餡餅です。この乳母が餅を売る「うばがもちや」は、現在では国道1号線の草津駅口交差点の南西角にありますが、江戸時代には1.5キロメートルほど南西の矢倉町にありました。草津の本陣からみて、1キロメートルほど大津よりになります。
絵を見ると右隅に「矢橋道」とありますが、この先を行くと琵琶湖岸。店の前の左右に延びた道が東海道、ということになります。東海道を行き交う人々はここで一服、旅の疲れを餅で癒し、渇いたのどを茶で潤すのです。
「うばもち」の看板を掲げる店内では床几が並べられ、給仕の女性たちが客の接待に忙しく立ちまわっている様子がうかがえます。右下の僧侶に店の女性が説明しています。「草津名物、うばがもちには謂われがございまして、その昔、信長公が近江に入国した折に滅亡いたしました佐々木家の乳母の福井とのが、御当主より曾孫を託されました。とのは郷里の草津に帰りまして、旅人に餅を売りながら幼子を養育いたしました」。僧侶も「そういえば大坂の陣の折、ここに立ち寄られた東照宮様も、たいそう感心されたそうですね」と、餅ばなしに花が咲きます。
一般客は床几に腰掛けて休憩するのですが、大名方や上級の武士などは左側に描かれている門から奥の座敷へ通され、お庭を拝見しながら甘味を食し茶をいただく、ということになっていました。いま門の奥に行こうとしている駕籠もその口で、玄関では店主が迎えにでています。
From:Yuki NISHINO